ホームページ開設にあたって

初代 友の会会長 柳澤昭夫

 1921年アイガー東山稜の初登攀を成し遂げ、わが国の登山のアルピニズム的展開に大きな影響をもたらした「槇有恒」さんは、研修会テキスト「高みへのステップ」の中で、登山指導者への助言として次のように述べています。・・・「(私達は)登山のみならず本性的に冒険性と安全性と言う二つの願望にはさまれていると思います。しかしこの対照的な感情のいずれにも払わるべき対価のあるものです。冒険性はあえて危険に向うことです。この中に価値の創造性を認め得るものであります。・・・安全性は・・・訓練を積むことの筋道が大切であることを意味します。・・・冒険の創造性は飛躍や僥偉を意味するものではありません。私は登山には、この訓練を積むことが最も大切であると思うのであります」
登山は、生身の人間が自然と対峙する行為です。科学の発達によって、多くの恵みを手に入れ、私達の生活を豊かにしてきました。だが、自然と人間の関係の中では、自然を理解した部分は、ほんの小さなエリヤに過ぎません。例え、理解したとしても経験と言う裏付けを持たない知識は、現実性に欠けるところがあります。多くの情報や知識を手に入れたと錯覚しても、登山はいぜんとして冒険の世界です。リスクを伴ったスポーツであり知識や理論の学習、体力や技術の訓練、経験の蓄積は欠かせません。
文部科学省登山研修所友の会は、研修会、講習会の参加者、講師並びに関係者が、さらに研究、研修を深めることを目的に創設した会であります。発足以来、高所登山や遅れているスポーツ科学或いは雪崩など様々な課題について研究会を開催すると共に、その成果を「登山研修」誌を通じて会員はもとより広く登山者に提供してきました。その多くの成果は、研修会における情熱的な講師の方々のデスカッションから生まれたものです。
私達は、登山の健全な展開に、知識や理論学習は欠かせないし体力や技術の訓練はさらに重要です。しかし、人と人のつながりの中で様々な課題についてデスカッションすると共に、人とのつながりだからこそ出来る経験の交流と蓄積は、殊に、生身の感性的で、未だ整理されていない体験を、人を介して蓄積することはさらに重要だと考えています。
ホームページを開設しました。今年の研究会では、雪庇、積雪、山岳気象について貴重な研究発表がありました。こうした成果を埋没させないためにも、友の会員はもとより、登山に関りのある研究者の方々、全ての登山者のお力添えを得て、研究の成果、知識や情報、実践的な経験を蓄積し、お知らせしたいと思います。旧い文献や資料にも新鮮なものがあります。語学に堪能な方もいらっしゃると思います。広く海外の文献や情報も取り扱って行きたいと思います。登山に絶対的なスタンダードはありません。最も大切なことは、技術や経験、知識等の情報を交流し、思考し、深化させることだ思います。ただし、悪言雑言の垂れ流しにならないよう委員会を設けて管理したいと思います。