会員投稿コラム

エクアドルの山と海 (1)

赤道直下の氷河の山
-エクアドル最高峰チンボラソ登山(6410m)-

                                        国立登山研修所友の会 会長 渡邉雄二

 私の友人が2015年6月、医務官としてエクアドル大使館に転勤となった。実は私の友人はアルジェリア大使館に勤務しておりその時にアルジェリアを訪問する約束をしていたが、大変悲惨な事件(テロ)が現地で発生したため訪問する機会を逸してしまっていた。そこで、エクアドルへの転勤を機に、早速に訪問の約束をして2016年1月中旬に首都キトを訪問した。訪問の主目的は、エクアドルの最高峰チンボラソ登山とユネスコ世界遺産(自然遺産第1号登録)のガラパゴス諸島探訪である。
 キトの標高は2800m、到着後のすぐの早歩きはさすがに息が切れるが、早速のウェルカムパーティの妙薬ですぐに順応する。とは言っても6千mの山登りなので高所順応には万全を期すことにする。

 1日目、キト郊外のピチンチャ山(4696m)へ順応トレーニングに出掛ける。テレフェリコと呼ばれる6人乗りのゴンドラで一気に山頂駅(4140m)へ。ここはキトの街を見渡すことができる市民の憩いの場の公園になっている。夜は、夜景を見ながらのデートスポットらしい。そんな光景を想像しなが草原地帯を過ぎ6つの小ピークを越え、山頂直下の岩場をよじ登って頂上へ到着、そこにはPichincha4696mと標示した立派な看板が立っていた。ゴンドラ駅から往復して約8時間のハイキング登山であった。

 2日目、チンボラソ山の登山基地であるカレル小屋へ向かう。トランスアメリカハイウェイを車で飛ばしキトから約5時間で標高4800mのカレル小屋に到着。車窓からはアンデス山脈の牛や羊の放牧地や雪を被った山々などの素晴らしい景観を楽しむことができた。カレル小屋でポークステーキの昼食をとってから、ウィンパー小屋(5000m)を経て5130mまで 順応トレーニングした。カレル小屋に戻りその後、リオバンバのホテルに向かって山を下りた。

 3日目、チンボラソ山を眺めることができるカリワイラソ山(5040m)へトレーニングに出掛けた。リオバンバから車で1時間30分ほどで標高4220mのスタート地点へ。ここから大草原の中を、標高4600mまで往復約7時間の山旅であった。途中の湖や岩峰の景観、ビクーニャ(南米に生息する草食性ほ乳類)との遭遇を楽しんだ。リオバンバのホテルに戻り宿泊。

 4日目、いよいよチンボラソ登山に向けて始動する。カレル小屋へ昼に到着し、チンボラソ山西稜5250mのテントサイトへ順応を兼ねて荷上げを行った(往復4時間の行程)。その後は小屋内でのんびり過ごす。室内は最近改装されたようで二段ベットを一人一台利用することができ快適であった。食事もスープ、メインディシュ(肉)、パン、コーヒー、紅茶とフルコースで美味しかった。この夜は満点の星空が素晴らしい。

 5日目、今日はのんびりと前進キャンプに入るだけの行動となる。昨日のトレールをチンボラソ山の景観を楽しみながらのんびり行動する。西稜5250mのテントサイトには11時過ぎに到着、今夜の出発(23時予定)に向けて昼寝三昧となる。

 6日目、素晴らしい月明かりに照らされて前進キャンプを出発(22:50)。西稜の基部をトラバースして稜線に上がり、アイゼンを装着してしばらく稜線通しに登っていく。稜線は大きな雪壁に吸い込まれ、氷化した壁をフロントポインティングのスタカットクライミングとなった。過去の記録を見ると、「5月の穂高岳登山」程度の難易度とのことであったが、いやいやどうしてなかなか厳しいクライミングになってしまった。天気は下り気味の予報であり、案の定午前3時頃から雪が降り出し周りの景色は全く見えなくなってしまったので尚更である。山頂近くになると、氷河が温暖化のためにずたずたになっており、傾斜のある巨大な洗濯板の上を登っているかのようであった。西峰(6270m)には吹雪の中を午前6時10分に到着した。降雪の合間から主峰(6410m)を眺めるが、巨大なクレバスが幾重にも波打っておりとってもじゃないが行けそうにないので、すぐに諦めがついた。最近の記録で主峰までは行っていないのには頷けた。眺めはないし寒いしで、とっとと下山開始とす。下降は、氷の壁に雪が付いたため下りづらい。視界も悪くほとんど懸垂下降で降りる羽目になった。前進キャンプに到着したのは10時45分、往復12時間の登山であった。その後、キャンプを撤収しカレル小屋に下山、夕方にはリオバンバのホテル登頂祝いの祝杯をあげていた。
 チンボラソ山は、温暖化の影響で氷河が後退し、登山ルートのほとんどは氷壁化してしまっているので、登山の難易度は以前に比べかなり高くなっていると思う。おまけに西峰から主峰へはクレバスに阻まれ行くことは相当困難な様相である。南米の山々ばかりでなく、ヒマラヤにもその傾向があり過去の登山記録とは様相が一変していることがあるので、過去の記録を鵜呑みにするのは軽率であろう。
 個人的には、1995年のマカルー東稜登山以来の20年ぶりの高所登山であった。今回は現地ガイドと一緒の登山であったが、楽しいチームメイトにも恵まれてアンデスの一角の素晴らしい山(エクアドルの最高峰)の頂きに立つことができ、それなりの難しさもあったので大いに満足であった。
(次回に続く)

 去る4月16日、エクアドルでの地震により、多くの人命と財産の被害が発生しました。このことについて哀悼と慰労を申し上げると共に、1日も早い復旧が行われることを祈念いたします。